乳腺の疾患
（腫瘍、はれ、痛み）
乳腺は、女性にとって特に重要な器官であり、母乳を産生する役割を担っています。しかし、乳腺は様々な疾患の影響を受けやすく、その種類は多岐に渡ります。乳がんは乳腺疾患の中でも特に注目されていますが、乳がん以外にも多くの疾患が存在します。これらの疾患は、炎症、腫瘍、嚢胞、構造異常など、様々な原因によって引き起こされます。
乳腺疾患は、痛み、しこり、分泌物などの症状が現れることがありますが、無症状の場合もあります。そのため、定期的なセルフチェックや乳がん検診が早期発見に繋がるため重要です。
乳腺疾患のセルフチェック
セルフチェックのタイミングとしては、閉経前の方は、月経終了後、1週間以内、閉経後の方は毎月一定の日を決めて行うことをお勧めいたします。
セルフチェック項目
乳腺疾患の種類
乳腺症
正常の乳腺は成長や加齢とともに、女性ホルモンの変化に反応して、成熟（もしくは発達）したり退行（もしくは、縮小）したりして常に変化しています。乳腺症とは、その正常の変化が少し強い状態、もしくは正常の変化からの逸脱（いつだつ）をあらわす言葉で、多くみられる乳腺のさまざまな良性変化をひとくくりにして呼ぶときの総称になります。
原因には卵巣から分泌される女性ホルモンが関わっているとされています。嚢胞や乳管内乳頭腫などさまざまなものが含まれており、それが乳腺の一部に集まるとしこりとして触れることがあります。また、乳腺に硬い部分ができたり、痛みが出たり、乳頭から分泌物がでたりすることがあります。
乳腺症のごく一部にはがんを発生するリスクが正常よりやや高い病変も含まれます。自覚するようなしこりがある場合は、積極的に受診をお勧めいたします。
乳腺線維腺腫
線維腺腫は乳房の代表的な良性腫瘍です。10歳代後半から40歳代の人に多く起こります。ころころとしたしこりで、触るとよく動きます。痛みを伴わないことが多いですが、月経前に張ったり、痛みを感じたりする場合もあります。
閉経後は徐々に縮小してしまうことが多いため、経過観察で問題ない場合が多いですが、しこりの大きくなる場合や症状が気になる場合は、細胞・組織検査や摘出をお勧めすることがあります。
葉状腫瘍
葉状腫瘍は、乳腺にできる比較的まれな腫瘍で、初期のものは線維腺腫に似ているものの、急速に大きくなることが多いのが特徴です。
ほとんどは良性ですが、中には悪性のものもあります。良性の葉状腫瘍は線維腺腫に似ていますが、成長が早く、経過をみているうちに大きくなる傾向があります。悪性の葉状腫瘍は乳房の悪性腫瘍の一種であり、転移する可能性があります。組織検査で葉状腫瘍の診断がついた場合、小さく増大がなければ経過観察も可能ですが、悪性の可能性も否定できない腫瘍であり診断と治療の両方の意味で摘出術をお勧めすることがあります。
乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫は、乳管内にできる良性の腫瘍です。乳頭からの出血や分泌物が見られることがあります。閉経前の女性に多く発生し、単発性と多発性があります。多発性の乳管内乳頭腫は、乳がんのリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。
診断にはマンモグラフィ、超音波検査、造影MRI、細胞診などが行われます。多くは経過観察を行いますが、大きさや症状により、腫瘍の切除をお勧めする場合があります。
乳腺炎
乳腺炎は、乳腺に細菌感染が起こったり、乳管に乳汁が詰まったりして、乳房に炎症を起こす疾患です。主に授乳期の女性に多く見られますが、授乳期以外でも発症することがあります。治療としては、抗生剤の投与を行ったり、膿を出すために皮膚を小さく切開する処置をすることがあります。
- うっ滞性乳腺炎
- 乳汁が乳腺内に溜まって起こる乳腺炎です。授乳期間中によく見られ、特に初産婦に好発します。また脂肪分や糖分が多い食事を摂ることでうっ帯性乳腺炎になりやすいとも言われています。
乳房の痛み・腫れ、熱感などの症状を伴います。 - 化膿性乳腺炎
- 乳首の傷などから感染して起こります。授乳期間以外でも起こることがあります。
乳房の赤い腫れ、痛み、発熱、倦怠感、筋肉痛、ドロドロとした黄色っぽい乳汁などの症状を伴います。
乳腺嚢胞（のうほう）
乳腺組織の一部が袋状になり、中に水がたまった状態をいいます。女性ホルモンのアンバランスが原因と考えられていますが、女性ホルモンの分泌が安定したり、閉経後に女性ホルモンの分泌が低下してくると自然に消えていくものなので、基本的に治療の必要はありません。また、一般にがん化する心配もありません。
しかし、嚢胞の中にがんが隠れていたり、がんと区別がつきにくかったりすることがあるため、細胞診などが必要になることもあります。