乳がんとは

乳がんは、乳腺にできる悪性腫瘍です。乳腺は母乳を作る組織で、小葉と乳管から成り立っています。小葉でつくられた母乳は、乳管を通って乳頭から分泌されます。乳がんは、この乳腺の細胞が何らかの原因でがん化し、増殖することで発生します。
女性に多いがんであり、日本人女性の約9人に1人が生涯のうちに乳がんになると言われています。早期発見・早期治療が重要であり、定期的な検診やセルフチェックが推奨されています。
乳がんの主な種類
乳がんは、発生する組織や細胞の種類、病変の広がりによって分類されます。
- 非浸潤性乳がん
- 乳管の内部(乳管または小葉の中)にがん細胞がとどまっており、周囲の組織に浸潤していない段階のごく早期の乳がんです。転移のリスクも極めて低く、がん細胞を取りきることができれば、ほとんどの場合、完治します。ただし、放置していると後に浸潤性乳がんに進行する可能性があります。
- 浸潤性乳がん
- がん細胞が乳管や小葉の壁を破って、乳管周囲の組織に広がっている(浸潤といいます)状態の乳がんです。遠隔転移がなければ治癒を目指した治療の対象になります。
乳がんのセルフチェック
乳がんは乳房上部・脇の近くにできやすいため、その周辺も忘れずにチェックしましょう。その周辺も忘れずにチェックしましょう。
セルフチェックのタイミングとしては、閉経前の方は、月経終了後、1週間以内、閉経後の方は毎月一定の日を決めて行うことをお勧めいたします。
- 視診
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- 左右の乳房の大きさや形に違いがないか
- 皮膚に赤み、くぼみ、ひきつれ、腫れなどがないか
- 乳頭にひきつれ、陥没、ただれなどがないか
- 乳頭から分泌物が出ていないか
※鏡の前に立って、乳房の形や大きさ、皮膚の状態、乳頭の変化などを確認します。腕を上げて行うことで、より変化に気づきやすくなります。 - 触診
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- しこりや腫れがないか
- 皮膚の硬さや厚さに変化がないか
※仰向けに寝て、片方の腕を頭の上に上げます。反対側の手の指の腹を使って、乳房全体を優しく触診するとより気づきやすくなります。
※セルフチェックで異常を感じた場合は、自己判断せずに医療機関を受診しましょう。セルフチェックはあくまでも早期発見のきっかけであり、確定診断を行うものではありません。定期的な検診と合わせて行うことが重要です。
乳がん検診
当院では以下の3つの検査方法を行っております。
視触診
乳房を視診・触診することで、乳房の痛み、しこり、ひきつれ、乳頭分泌物、皮膚の赤み、乳頭の異常などの症状がないか等チェックしていきます。
痛みはないので身体への負担はありません。
しこりの発見で「乳がん」を見つけられますが、しこりとして触れることのできないような小さながんの発見には適さず視触診単独での検診は推奨されていませんので、他の検査と併用することが基本になります。
超音波検査
超音波検査では乳房内の病変の有無、腫瘍の大きさなどを確認します。小さな腫瘍も発見できるのが特徴で、マンモグラフィでは発見しにくい、乳腺症などの良性疾患や、若い女性の乳がんの発見にも有用です。マンモグラフィと組み合わせて行うことで、より精度の高い診断が期待できます。
- メリット
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- 触診では分からないしこりも発見
- デンスブレスト(高濃度乳腺)の方でも、病変を発見しやすい
- 妊娠中、またその疑いがある方でも検査可能
- デメリット
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- 微細な石灰化の発見が難しい
- 以前の画像所見との比較が難しい(全体像の記録を残すのが難しいため)
マンモグラフィ検査
マンモグラフィ検査は、乳房を挟み圧迫しながら、乳房専用のX線撮影装置撮影を用いて検査します。乳房内をより鮮明に見ることができます。石灰化(乳房にカルシウムが沈着する)は必ずしも悪性とは限りませんが、超音波検査では見えづらい微細な石灰化や、早期の小さながんの発見に最適な検査です。
40歳以上の方は、2年に1回程度のマンモグラフィ検査の受診が推奨されています。
なお、当院では検査の際の痛みをやわらげる機種を採用しており、基本的に検診検査の資格を持つ女性技師が担当します。
- メリット
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- 触診では分からないしこりも発見
- しこりをつくらない早期がんの発見
- 以前の画像所見との比較がし易い
- デメリット
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- 機械で乳房を挟むため痛みを伴う場合がある(個人差あり)
- 若い女性やデンスブレスト(高濃度乳腺)の方は病変を見つけにくい
- 豊胸手術を受けた方やペースメーカーを装着されている方の検査が難しい
乳がんの治療について
初期治療の標準的な流れは、ガイドラインに準じて行います。
大きく分けると、手術でがんをすべて摘出できる可能性のあるステージ(0期、Ⅰ期、Ⅱ期、ⅢA期)ではまず手術を行い、再発リスクに合わせて術後の追加治療を行います。診断時にリンパ節転移がある場合や乳がんのタイプにより手術前に薬物治療(抗がん剤や分子標的治療)をお勧めする場合があります。その際はわかりやすく院長が説明を行います。
一方で、そのまま手術を行ってもすべてがんを摘出するのが困難なステージ(ⅢB・ⅢC期、Ⅳ期)ではまず薬物療法が行われ、病状に応じた治療を行います。
手術療法
乳がんの最も基本的な治療方法です。乳房温存手術(乳房部分切除術)と乳房全摘術(乳房全切除術)の2パターンがあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、がんの大きさや広がり、患者さまのご希望も含めて相談して決定します。また、温存術の場合、術中の広がり診断により乳房切除術へ移行する可能性があります。(詳しくは治療選択の際にご説明します。)
- 乳房温存手術
(乳房部分切除術) - がん組織を周囲の正常な組織をつけて切除(くり抜くイメージ)する手術です。乳房全体を切除しないため、乳房を残すことができます。術後に放射線治療が必要になります。
- 乳房全摘術
(乳房全切除術) - がん組織が広範囲に存在する場合や、再発リスクが高い場合、乳房全体を切除する乳房切除術が選択されることがあります。また、乳房切除術を行った場合は希望があれば、保険適応による乳房再建手術を行うことができます。
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーの放射線を用いてがん細胞を破壊する治療法です。手術療法の後に行うことで、再発リスクを低減します。乳房温存手術後に基本的に全例で行います。乳房切除術後にもリンパ節転移が多い場合などに行われます。副作用として、皮膚炎、疲労感などが挙げられます。
薬物療法
薬物療法は、抗がん剤などの薬を用いてがん細胞を攻撃する治療法です。手術療法や放射線療法と組み合わせて行う場合や、再発・転移した場合に行う場合があります。ホルモン療法、化学療法、分子標的薬などがあります。
- 内分泌療法
(ホルモン療法) - がん細胞の増殖に関わる女性ホルモンのエストロゲンを減らすお薬や、エストロゲンがホルモン受容体に結合するのを阻止するお薬を使う治療
- 化学療法
- 抗がん剤(がん細胞の増殖に関わる機能にダメージを与えるお薬)を使う治療
- 分子標的薬
- 分子標的治療薬(がん細胞の特定の分子を標的として攻撃する薬)を使う治療