甲状腺機能亢進症
(バセドウ病)

バセドウ病とは、甲状腺で必要量より多く甲状腺ホルモンを産生することにより、全身の新陳代謝を活発にさせ、動悸(ドキドキする)、体重減少、手の震えなど、全身に様々な症状が生じてくる病気です。
バセドウ病の治療には、「薬物治療」「放射性ヨウ素内用療法」「手術」の3種類があります。しかしいずれもバセドウ病を完治させる完璧な治療法ではなく、それぞれ一長一短があります。患者さまに適した治療法の選択や長期の治療あるいは治療後の経過観察が必要なので、甲状腺を専門としている医院にかかることをお勧めいたします。
当院では内分泌外科専門医である院長が診療し、本院との連携により「薬物治療」「放射性ヨウ素内用療法」「手術」の3種類の治療が可能です。
バセドウ病の診断方法
甲状腺のホルモンが高くなる病気にはバセドウ病の他に「無痛性甲状腺炎、プランマー病、亜急性甲状腺炎」といった病気があります。これらの中には、バセドウ病の治療の際に用いる薬剤を使用すべきではない病気がありますので、きちんと診断が重要です。
診断の際には、まず以下の項目のうち①~②の項目を満たせば、97~98%程度の確率でバセドウ病です。確定診断をするためには③~④の項目を確認すると、より診断の助けとなります。
- ①甲状腺ホルモンが高い(FT4、FT3が高く、TSHが低い)
- ②TRAbが陽性の2つ
- ③放射性ヨウ素摂取率が高い
- ④甲状腺の血流が増加している(頸部超音波検査)
バセドウ病の治療方法
薬物治療(抗甲状腺薬)
バセドウ病の診断がつけば、まず抗甲状腺剤を内服します。手術や放射性ヨウ素内用治療がよいと判断しても、まずは甲状腺ホルモンを下げる必要があるためです。
症状や血液中の甲状腺ホルモンの値にもよりますが、それらの薬を1日3~6錠から始め、血液中の甲状腺ホルモン値を確認しながら徐々に減量していきます。抗甲状腺薬での治療は通常、2年あるいはそれ以上の期間を必要とします。
抗甲状腺薬の副作用
通常、抗甲状腺薬の副作用は内服開始後、2週間前後の時期から出現し始めます。そのため、その時期に体調に変化があれば、気軽に当院へお問い合わせください。
頻度が稀ではないものとして、かゆみ・蕁麻疹などの皮疹・肝機能障害があります。いずれも程度が軽ければ対症療法や薬剤の減量で内服を継続することができますが、程度がひどい場合は内服の中止が必要となります。
稀なものでは、関節痛、発熱、低血糖、血管炎などが挙げられます。
特に注意が必要なのが、“無顆粒球症”です。顆粒球とは白血球の一種で細菌感染から体を守ってくれる大切な細胞です。これが抗甲状腺薬の影響で減少してしまい、重篤な感染症を生じてしまうことが稀にあります(0.1~0.3%)。顆粒球が減るだけでは症状はでませんが、38℃以上の発熱やひどい咽頭痛が発生したときは検査が必要です。
無顆粒球症などの重篤な副作用の場合、放射性ヨウ素内用療法や手術をより積極的に考えていかなければならないこともあります。
副作用の程度や経過によって診断内容も変わってきますので、外来でよく相談しながら決めていくことになります。
放射性ヨウ素内用療法
放射性ヨウ素内用療法(アイソトープ治療)は、患者さまに放射性ヨウ素カプセルを飲んでいただく治療です。飲んだ放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれ、そこでβ線(ベータ線)という放射線を出すことにより、甲状腺を破壊し甲状腺ホルモンの分泌を低下させます。
放射性ヨウ素内用療法は、最終的には甲状腺機能低下症に移行する可能性が高いことが短所となります。機能低下になれば生涯、甲状腺ホルモンの内服が必要です。しかし甲状腺ホルモンは副作用もない安価な薬で、患者さまの負担は大きくありません。
また、甲状腺機能低下症となった場合は、副作用というよりは“バセドウ病の治療効果”のため、“バセドウ病は再発しない”とご認識ください。
このような方は放射性ヨウ素内用療法ができません
- 妊産婦の方
- 直近に妊娠・出産の予定・希望のある方
- 若年者の方
バセドウ病の放射性ヨウ素内用療法について、詳しい情報はこちら。
腫瘍・免疫核医学研究会ホームページ
手術による治療
以下の4項目いずれかに該当する患者さまが手術療法を選択できます。
- ① 抗甲状腺剤で副作用のある方
- ② 腫瘍が合併している方
- ③ 抗甲状腺剤の治療で非常に治り難い方
- ④ 短期間での治療を希望する方
※②以外の場合は放射性ヨード治療も選択可能です。
③の内科的治療で治り難いかどうかは経過をみなければ判りませんが、甲状腺腫が大きく血液中の甲状腺刺激抗体(TRAb)の高い患者さまは、初診時にある程度見当がつきます。また内服開始後の甲状腺腫の大きさや甲状腺刺激抗体の推移、薬への反応をみて治りやすいかどうか判断します。
手術療法では短期に機能亢進は治ることが最大の長所です。
対して、入院が必要となり手術瘢痕が残ること、反回神経麻痺(声帯の動きを調節する神経を損傷することにより、声がかれたり飲食でむせたりする)や副甲状腺機能低下症(血液中のカルシウムを調節している副甲状腺ホルモンが低下して、カルシウムが低くなり手や顔面がしびれる)が生じることがあるのが短所となります。
もちろん甲状腺機能が低下あるいは再発する可能性もあるので、生涯にわたり完全治癒を保証できるものではありません。上記のような短所があっても長所の恩恵が十分上回ると考えられる患者さまに手術をお勧めいたします。
術前処置と術式の選択
原則として、薬で血液中の甲状腺ホルモンを正常化させたあとに手術を行います。手術の1週間前より、甲状腺への血流を少なくして手術中に出血しにくくする目的で、ヨード剤(ヨウ化カリウム丸)を飲んでいただきます。副作用のため薬が使えない患者さまには、ヨード剤とβ遮断薬(脈拍を抑える薬)で甲状腺機能を下げるようにしていますが、甲状腺ホルモン値は正常化しないうちに手術を行なうこともあります。
大きな甲状腺腫を有するバセドウ病患者の方でかなりの出血が予想される場合は、術前に自己貯血(自分の血液を保存しておき、輸血が必要な際にそれを本人にもどすことで他人からの輸血を避けることができます)をしています。自己貯血は手術前に1、2回(1回につき400ml)必要です。
バセドウ病の手術についての考え方
バセドウ病の手術についての考え方は以下の2パターンあります。
- 術後甲状腺機能
低下を目指す -
- 甲状腺全摘出術(甲状腺を全部とること)
- 準全摘出術(甲状腺を1グラム程度を残す)
- 機能正常化を
目指す -
- 甲状腺亜全摘出術(左右合わせて4~6グラム程度残す)
しかし、残念ながら永久に甲状腺機能を正常化させる確実な方法はありません。甲状腺を多く残せば再発の可能性が高くなり、少なく残せば機能低下の可能性が高くなるということです。また、甲状腺がんが合併する場合、手術方法は腫瘍の位置、大きさ、リンパ節転移の有無により違ってきます。
甲状腺を全部とれば一生甲状腺ホルモンを飲む必要があり、反回神経麻痺(声帯の動を調節する神経を損傷することにより、声がかれたり飲食でむせたりする)や副甲状腺機能低下(血液中のカルシウムを調節している副甲状腺ホルモンが低下して、カルシウムが低くなり手や顔面がしびれる)という合併症の頻度が高くなります。
前述しましたが、甲状腺ホルモンの内服に関しては、副作用もない安価な内服薬があり、また長期処方が可能になりました。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは、生きていくために必要不可欠なホルモンです。
甲状腺機能に異常がない人は、血液中の甲状腺ホルモンが常に適切な量に調節されています。しかし、甲状腺機能に異常がある場合は甲状腺ホルモンの量を適切に調整することができなくなります。血液中の甲状腺ホルモンの量が少ない状態が“甲状腺機能低下症”です。
このような症状の方はご相談ください
- 首の腫れ
- のどの違和感
- 寒がり
- 食欲はないのに太る
- 肌の乾燥
- からだがかゆみ
- からだがむくむ
- 便秘
- 昼間も何故か眠い
- 居眠りをする
- やる気がでない
- からだが重い
- 月経不順
- 不妊
- 流産
甲状腺機能低下症の原因となる疾患
橋本病
橋本病とは免疫に異常が生じることで甲状腺に慢性的な炎症を引き起こし、機能が低下してしまう病気です。免疫の異常というのは、身体を守るはずの免疫細胞が自分の甲状腺組織を 攻撃・ 破壊してしまうことを指します。20代後半から40代の患者さまが多く、とくに女性に多い病気です。
また、橋本病はメンタルの不調に似た症状が現れることから、うつ病を疑ってしまうことも少なくありません。甲状腺の異常は健康診断では気づきにくいので、うつ病かもと思ったら一度受診をお勧めいたします。